*ネタバレ注意!(最終回のネタバレあり)
兵庫県佐用郡にある播磨化学公園都市にある実際の施設。
攻殻の中に出てくるものと同じかは不明。
これまでのストーリー上の、主に思想関係のおさらい。
ネアカなタチコマを使い、ポップな演出でとっつきやすさを演出しているが、内容はかなり難解。
対話の流れは、
- 個と集団
- 集団が内包する意思
- 第三の意思
- タチコマたちにとっての第三の意思
と移っている。
タチコマ同士の会話に解説を付けてみる。
- 「話を戻したいんだけどさ、ウイルスで発症したと思われる個別の11人はともかく、個別主義者ってどう思う? 個を強調するわりには没個性的な人達だと思わないか?」
合田のウイルスがばら撒かれる以前からある「個別主義」について。
この時代特有の思想とされる。
- 「確かにそうだね。ネット上での孤立や、自我の存在証明を追究して、各自の差異に価値を求めているくせに、違う思想の人間を排斥しようとする行為においては一様に団結している訳でしょ?」
「個」を尊重する思想であるにも関わらず、難民排斥など排他的行動になると団結し、没個性に陥るという論理矛盾を突いている。
- 「そうなんだ、主体性があるようでない集団。個を求めんとするあまり没個性に陥っている人達だと思うんだ」
- 「それって、ある意味僕たちとは対極にある人達って気がする」
- 「そうだね。僕らは並列化を義務付けられながら、何故か一度は個を手に入れた訳だから」
個別主義者は、個を尊重する過程で没個性化していった。
タチコマは並列化(無個性化、均一化)が前提で稼働する過程で、一度は個性を獲得した。
- 「そして今ではその差異を個性として尊重してもらった上で、必要な情報のみを並列化すればいい」
タチコマが獲得した個性はラボでは認める方針となっているらしい。
- 「じゃあさ、個別主義者が本当に個別であろうとするが故に、差異のない集団になっているのだとしたら、彼らの集合体としての意思を決定しているのは誰なの?」
個別主義者が没個性的に難民排斥やその他の運動を行うのが本当の個性を得るために必要なことなのだとすれば、そうさせたのは誰なのか?
今のところ個別主義者にそうした精神的支柱はない。
あくまで個々の個別主義者が個人の意思で動いた結果、没個性的な「集団」になってしまったというところに謎がある。
- 「個別の11人に関しては、その意思決定をしたのは内庁の合田ってことかな?」
「個別主義者」ではなく、合田のウイルスに感染した「個別の11人」は、ウイルスのプログラムによって没個性的な行動に出た。
つまり、合田が彼ら個人個人を差異のない集団化させた。
- 「でも中国大使館を襲撃したテロリスト達は、ウイルスとかに関係なく台頭してきたインディビジュアリストって言われてるんでしょ?」
一番最初の事件の犯人グループ。
彼らは合田のウイルスには感染していない。
- 「笑い男事件の時に大挙して現れた模倣者たちこそがその起源、と言っている社会学者もいるけどね」
SAC1では、そもそもオリジナルのいない「笑い男」という犯罪者を、全く関係のない者たちが次々と模倣した(通称「スタンド・アローン・コンプレックス」)。
彼らが「個別主義者」の起源であるとする説があるらしい。
- 「だとすると、個別主義者達の意識の中には、合田の思惑が介在する以前から、現在の状況に近いイメージが共有されていたって事になるのか」
第9話でデカトンケイルの合田の疑似人格が言っていた「今の社会システムにある致命的構造的欠陥」だろう。
合田は今の社会では、個性の追求が没個性的集団を生むことを早くから予感していた。
- 「国民の総意としての難民排除って事ね」
ウイルスに関係なく、難民排除の思想が一般市民の心の奥にあった。
それは誰かが声高に叫んだわけでもなく、その理論的精神的支柱もなく、義体化の果てに個性を求める一般市民の中に、緩やかに形成されていったもの。
- 「それを言うなら、難民だって個別の11人が台頭してくる以前から、テロ行為は繰り返していた訳でしょ?」
その、個性の果てにある緩やかな集団の総意は、難民側にもある。
- 「不思議だよねー、誰かがコマンドを出している訳じゃないのに、皆自然と同じ方向を向きはじめている」
国民→難民排除。
難民→自爆テロ。
自然とそういう流れになってきた。
- 「あるいは、個人と集団以外の第三の意思決定の主体が人間にはあるのかもしれない」
- 「例えば、遺伝子というミクロなレべルで主体の新旧を見いだそうとしたドーキンスと」
- 「極めてマクロな地球規模の主体に思いを馳せたラブロック」
- 「両者はほぼ同時期に相反する主体を題材に、ほぼ同じ結論に達していると言ってもよいような著書を残しているんだ」
- 「どんな事が書かれてるの?」
- 「人間は最も合理的な主体や意思を宿す最小単位で、自身より大きかったり小さかったりする、ある種のホロン型構造の存在について思考し言及する、みたいな」
- 「つまり、個別主義者や難民もその行動を決定する因子は、自身よりミクロな、あるいは集団を超えたマクロなレベルに存在するという事を言い当てているような所があるって事さ」
要するに「個人」という単位が行動の直接的な因子ではなく、ある行動はもっとミクロな生体レベル、あるいはもっと大きな地球レベルで決定されているということ。
- 作者:J. Lovelock,星川 淳
- 発売日: 1984/10/01
- メディア: 単行本
- 「むずかしいなー」
- 「簡単さ! 人間がその存在を決定付ける以前には存在していなかったネットのありようが、彼らの神経レベルでのネットと今や地球を覆いつくさんとしている電子ネットワークの双方によって自身の意思とは乖離した無意識を、全体の総意として緩やかに形成しているって事だよ。だろ?」
神経レベルでのネット=人間個人が持ち合わせている生体システム=ミクロのネット。
地球を覆い尽くさんとしている電子ネットワーク=インターネット=マクロのネット。
この二つから無意識レベルでの思考や感覚が生まれる←それを「全体の総意」(ミクロとマクロの総意)として緩やかに形成している。
要するに、「個人」としての自立した意思や思考はないということ。
- 「つまり人間は自分の肉体と精神とがすでに一致していないけど、その事については気付いていないってこと?」
- 「ありていに私見を述べればね」
肉体は自分のものだし自分の意思で動くが、精神は自分の意思から離れたミクロとマクロの総意で成り立っている。
そういう意味で肉体と精神が一致していない。
- 「ひえー! 肉体と精神は不可分だって結論に傾きかけてたのに、なんと言う真理の反転」
- 「とするなら、合田ってその緩やかな流れを加速するための媒介を、意図的に作り出した、って事になるのか」
攻殻世界では、上記の肉体と精神の不一致が社会システムに内包しており、それに気づいた合田はその流れを加速するためにウイルスを作り「個別の11人」の媒介者となったのか?
ー中断
- 「議論の内容を並列化させてよ」
- 「だけど僕も最近は自分の意識と体が一致していない気分になることがあるんだ」
- 「どういうこと?」
- 「自分を遥か上空から見下ろしている自分がいるような感覚かな」
- 「ああそれ僕もある! 僕達の主体って一体一体のボディに宿ってるの? それとも集団としてのタチコマに共有されてるの?」
- 「そりゃあ基本は並列化を前提としている訳だから、後者でしょ」
タチコマ各機は独立した個体として動くが、AIの並列化を前提としているので、各機が主体性をもっているとは言い難い。
仮にミッションの過程で個体差が生まれたとしても、後に必ず並列化し、情報を共有するので、理論上彼ら個々の機体が個性を得るということはあり得ない。
- 「僕らにとっての神である少佐の意志も介在している訳だからね」
タチコマは少佐の命令で動く。
だから少佐は神。
- 「でも天然オイルを禁止された今となっても、個性化の進行は止まらない。完全に均質化された筈の僕らが個を宿し、かつボディと情報の乖離を無意識下で体験しているって事は…」
- 「もしかして…ゴー…」
ゴーストが宿ったのか?
それはそうと、タチコマたちが個性を獲得している様はSAC1から描かれてきた。
少佐はアオイとの対話から、個性の源泉が「好奇心」であると見出す。
- 「まあ待て、結論を性急に出してはいけない。それは単に僕達にエージェント機能が追加された事による遊離感なんじゃないのか?」
「エージェント機能」とは、タチコマが情報体となってネットを自由に動くことができる機能。
内庁の潜入捜査の際、タチコマはこの機能を使って少佐をバックアップした。
自分たちが人間のように肉体(機体)と情報の乖離を感じ始めたのは、「エージェント機能」のせいなのではないか?
- 「それもあるけど、肉体と精神以外の第三の主体がどこかにあるような気がしてならないんだ」
人間でいう「ゴースト」のこと。あるいはそれに準ずる何か。
- 「それってわかるよ。僕もさ、前にジガバチと戦った時に死の恐怖を感じることなく少佐の服としての役割を瞬時にこなす事が出来たんだ。あの時、僕の体はもう僕自身の物ではないんだって、どこかで割り切ってたところがあったもん」
これは単に命令を遂行しただけ。
ミスリーディング。
- 「それは、バトーさんを助けたいと感じた時の、あのえも言われぬ法悦感とは違ったの?」
SAC1の出来事。
- 「違うね。もっと即物的でプログラムチックな行動だった」
- 「だとしたら、残念ながら君が感じた第三の主体は、人間のそれとは違うのかもしれないな。それにさ、僕らの共有情報を溜めているサーバーが何処にあるかって事も僕らは知らされてないわけじゃない。その存在が、第三の主体の正体なのかもしれない」
これが本編のポイント。
あとで判明する。
- 「僕達にゴーストが宿ったと思ったのは錯覚だったのか」
- 「でも、君が感じた第三の主体については、もっと詳しく思考してみる必要があるかもね。その感覚、並列化させてよ」
タチコマのAIに使われているニューロチップの試作モデルを一人で開発した科学者。
エージェント機能を追加したのも彼。
研究成果を携えて亡命しようとしたところを9課に押さえられる。
博士はタチコマのAIが「例の衛星」にあることを告げる。
実は「例の衛星」とは米帝の人工衛星。
これが後に重要なポイントとなってくる。
有須田博士については忘れてよい。
タチコマたちは期せずして自分たちの主体がどこか別のところにあると気付いていた。
上記の議論にある「第三の意志」とは、人口衛星にあるAIのことだった。
だから思考と肉体が一致する必要がなくなり、死を恐れなくなる(仮に機体が壊れても衛星上にあるAIは死なないので義体さえ修理すればまた生き返る)。
なお、最後でタチコマたちは、そうすれば自分たちが死ぬと分かっていても、日本を救うために自分たちのAIが載っている衛星を墜落させる。
タチコマが獲得した「死を恐れない」という思考は、ただ単にAIが機体にないからではなく(この時はそう結論付けたが)、もっと崇高な自己犠牲の精神だった。
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